フィリップ・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘』WAVE出版 (上=ISBN:4872901584/下=ISBN:4872901592)

  1. わずか10年ほど前のことだが、アフリカのルワンダで「100万人」の人々が一方的に殺戮されるという事件が起こった。著者はその事件の1年後に現地に赴き、詳細な報告を書いているが、著者を動かしているのは「何故このような悲劇が起こったか」ではなく、「何故これほどの悲劇を世界のほとんどの人々が無視しようとしているのか」にあるように思える。
  2. 「虐殺」が行われたメカニズム(アフリカを「発見」したヨーロッパ人が持ち込んだ概念(「聖書」と「民主主義」)が大きな役割を果たしている)や、虐殺事件後の各国からの「善意」が如何に不条理な事態をもたらしたかは置いておくとして、この大きな流れに逆らうようなほとんど英雄的ともいえる行動をとった何人かが印象に残る。国連軍の将軍(大規模な虐殺が起こる直前に何度も鎮圧のための出動を要請したが、国連からはついにgoサインが出なかった)、ルワンダの最高級ホテルの支配人(自分が殺されるかもしれないのに、ホテルに逃げ込んだ人たちを助ける交渉を続けて何人も救った)、カガメ将軍(現ルワンダ大統領)である。
  3. ほとんどの人が押し流された「大きな流れ」には、やはり自分も押し流され、他の大多数の人たちに同調して加害者になったり、ただ死を待つだけの被害者になっていたのではないかと想像できる。そうした中で後に「英雄的」と見られるような行動をとったのは、結局「自分に何ができるか」を明確に知っている人たちだったと思う。国連軍の将軍は数々の勲章に輝く歴戦の将で、自分たちも相手も最小の犠牲で暴動を抑えることができると確信しでいたから、何度も出動を要請したのだし、ホテルの支配人はルワンダの外国資本企業で働くルワンダ人では異例の出世をとげた人物で、言ってみれば「交渉のプロ」だった。彼らのように、自分が持っている技術とできることを正確に把握していれば、困難な場面でも後悔のない行動がとれるかもしれない。しかし、普通の人はカガメ将軍のようにはなれない。彼には「思想」と「理想」があり、自分以外の人物を、自分がいないところでも、自分と同じように行動させることができた人物なのである。彼の資質は「革命家」のそれと言ってよい。

※1ヶ月ほど前に読了。再読せず固有名詞や数字を amazon の紹介文で確認し、残りは記憶に基づいて記述