ドウス昌代『イサム・ノグチ -- 宿命の越境者』講談社文庫(上=ISBN:406273690X/下=ISBN:4062736918)

  1. 副題にある通り、著者がイサム・ノグチ(日系アメリカ人アーティスト。作品等はここに詳しい:http://www.noguchi.org/)に見いだしたものは、「越境者」である。明治という時代に混血の私生児として生まれた彼は、自分のアイデンティティの確立を求め続けたが、それが固まろうとすると、そこから全力で離れようとする傾向を持つ人物でもあったようだ。彼が越えようとした境界とは、「東洋と西洋」「モダンと伝統」といった図式的なものより、他人や自分自身が「自分をはめ込もうとする枠」の方だったのだろう。
  2. 私にとってのイサム・ノグチは、「造形家」である。彼は現代美術の創作対象範囲を「空間」そのものにまで広げた人物である。後年の主要な仕事が「庭園」となるのは、創作対象としての「空間」に「時間軸」を加えたかったからであろうし、「あかり」のような作品を重視していたのは、彼が造形しようとしたものが、照明によって演出される「空間」をも含み、そこまで創作対象を広げたアーティストは他にいなかったからであろう。
  3. イサム・ノグチは、「自分が最も影響を受けた教育」として、「日本で過ごした子供時代に大工のもとで1ヶ月ほど修行した時に身に付けた技術」と答えている。彼の優れた点は、その驚異的なまでの空間の把握能力だと思うが、そうした能力も、プリミティブな身体的な技術から修得されたものだったのではないかと思う。自分の持つ技術が、もっと大きな範囲に応用できないかということは、もう一度考えてみる必要があるかもしれない。

※2週間ほど前に読了。再読せず、記憶のみで記述。