よしながふみ『愛すべき娘たち』白泉社

愛すべき娘たち (Jets comics)
よしながふみについては、『西洋骨董洋菓子店』の感想を書いたことがありますが、そこで紹介したインタビュー記事を読んで改めて思ったのは、よしながふみという漫画家は「物語をどのように作っていくか」ということにとても自覚的な人なんだな、ということです。この作品集を読んで、その印象はさらに強くなったのですが、それはこの作品集に収められた5話の短編に共通するパターンがあり、それが決して偶然の産物とは思えなかったからです。そのパターンというのは、ストーリーの終盤の展開とそれを描く方法に関するものですが、かいつまんで書くと

  • 各話の中心となる人物は、終盤になって、自分の中でそれまで形になっていなかった感情が形作られていることに気づく
  • その人物がその感情を受け入れる様子が、無言のコマ(主にその人物の表情の変化(+感情を生み出した対象が挟まれることもある))で1ページ前後費やして描かれる
  • 最後は、ある情景を描いた大ゴマ(1ページ〜半ページ)で終わり、そのコマは余韻を出すためか、余白が多用される

という感じですね。※あらためて読み返してみると、よしながふみは無言のコマを使うのがとてもうまいですね。

もちろん、漫画家には誰にもその人なりの方法論というのはあるのでしょうが、よしながふみのように、その方法論が明確で、なおかつ、それが決して浮いたものにならないというのも珍しい気がするので、この人の作品はまたしばらく追いかけてみようかと思います。

(2004/03/03)