山形浩生『山形道場』イーストプレス(ISBN:4872572483)

  1. 『新教養主義宣言』に続く、2冊目のエッセイ・評論集。著者のホームページなど、webで読める文章も多く収録されているが、「本」としては若干まとまりに欠けるので、もう少し特定のテーマで文章がたまるまで、単行本化は待ったほうが良かったかもしれない(経済ネタは足が速いという事情もあったんだろうが)。まあ、著者を語るなら最新オリジナル本の『たかがバロウズ本。』を取り上げるべきなんだろうが、未読なもので。
  2. で、この本は実はちょっと困った本なのだった。というのは、例の「クラインの壷」のオリジナル(http://www.post1.com/home/hiyori13/other/asada.html)にあった FAQ06 が削除されているのである。この FAQ06 を読めば、著者自身、「この文章は浅田彰の間違いを指摘するのが目的で、クラインの壷を正しく理解させるには別の解説文を書く必要がある」と認めているのに、その約束が果たされていないのだ。これはまずい(どうまずいかは後の memo で)。
  3. 山形浩生の(特にその翻訳での)仕事ぶりには、敬服を通り越して驚嘆するしかないのだが、昨日紹介のインタビューの最後(http://media.excite.co.jp/book/interview/200308/p04.html)で自分でも言っているように、(解説の仕事なんかでは)細部が甘いところがある。しかし、そういうことは過去の多才な人にもよくあることで、大した欠点ではない。それよりは、そういう脇の甘さ(上の FAQ削除なんかも結局はそうだ)をちゃんと編集者なりが指摘して詰めるようにすべきだろう。まあ、こういう多才さに付き合いきれる人間(良い編集者)などそうそういるとも思えないのだが、早く良いパートナーを捕まえるのが世のため人のためでありましょう(世間なんか知ったこっちゃあない、と言われそうですが)。