夏目房之介『マンガの深読み、大人読み』、稲葉振一郎『オタクの遺伝子』

マンガの深読み、大人読み (知恵の森文庫)
オタクの遺伝子 長谷川裕一・SFまんがの世界

  1. 2冊とも2005年前後に出版されたマンガ評論本。『マンガの深読み、大人読み』の方は、後の夏目房之介・漫画学の萌芽が多く含まており、全体的には幅の広い話題を扱っているが、第2部「『あしたのジョー』&『巨人の星』徹底分析」が間違いなく最大の読みどころである。『オタクの遺伝子』の方は、長谷川裕一というSFマンガ家作品を元に、自閉しがちな「オタク」と呼ばれる人たちが愛する数々の「ガジェット」は本来は外(未来)へつながっていくものとして創作されたものであり、そうであるならば君たちも外へと目を向けるべきだとする、ある種の「啓蒙書」と言えるかも。
  2. 2つの本をほぼ同時期に読んで少し驚いたのは、梶原一騎原作『巨人の星』と『あしたのジョー』、そして、長谷川裕一作『マップス』と『クロノアイズ』シリーズに意外な共通点があるように思ったことだ。それは、「宿命」(『巨人の星』+『マップス』)と「亡霊」(『あしたのジョー』+『クロノアイズ』)である。
  3. 簡単に言えば、「宿命」は自分の前の世代の「計画」がキーであり、それは自分の手で実現できるのか、そもそもその計画に従うべきなのか、ということがテーマであり、「亡霊」はかつて自分と同じ理想を持って行動を共にしながら、途半ばで消えたものの意志を、自分が叶えられるのか、そもそもその意志に縛られて生きるべきなのか、といったことがテーマと言えるだろうか。少年ジャンプ的「友情」「努力」「勝利」とはまた別の切り口のテーマを見せられたようで新鮮であったが、「自分以外の者の意志」と「自分の意志/行動」の葛藤という意味では今日的なテーマでもあるように思える。