ジョン・スタインベック『アメリカとアメリカ人』平凡社ライブラリー(ISBN:4582764436)

  1. ノーベル文学賞も受賞しているアメリカの作家=スタインベックの最後の作品。小説ではなく、アメリカをテーマとしたエッセイ集である。原著は1966年、訳書(サイマル出版会版)は1969年の発行で、スタインベックは1968年に死去している。
  2. 本書は全9章から成るが、「アメリカ」について語るエッセイ、というスタイルをとりながらも、奇妙な味わいを残す章がいくつかあった。それは一般論を語るうちに、個人的な経験へと話が移り、それが明確な答えをもたらすというより、そのまま溶けていくような感じの、そういう意味では「小説」的な文章である。例えば、第1章や第5章がそういうふうに分類できるもので、とても印象的だった。
  3. 本書の最初にスタインベックも書いているが、「アメリカ」を論じて「アメリカ論」を書くのは、大抵はアメリカ人以外の外国人である。アメリカ人自身が語ったアメリカ論はそう多くないし、あったとしても「自らがアメリカ人である」ことを認めて書かれたものはそんなにはないだろう。スタインベックは、アメリカの抱える問題を直視しながらもユーモアを忘れず、絶望感に苛まれながらも希望を持つことを諦めはしない。そして、その自分の態度の中にこそ「アメリカン・ウェイ」を見る。たぶん、スタインベックの指摘のうち今でもとても重要な意味を持つものは、アメリカ人は「夢」を見るという点だろう。「決して満足することのないアメリカ」「他人にも自分の規律を強要するアメリカ」は、「未だ実現できずにいる理想郷」という「夢」をその行動原理の根本に持つ。アメリカは「多民族が一つの民族へと移り変わる」という歴史を持ち、異民族問題、人種問題もその流れの中で解決してきた。つまりは「アメリカが一つの国家として一体化する」ことがアメリカの理想であり、意志でもある。現在は、そのアメリカの理想=夢が、「グローバリズム」の名のもとに、世界を覆い尽くそうとしている時代なのかもしれない。